論文賞

ペロブスカイト酸化物によるトルエンの選択吸着

 

鈴木 智大 殿,塩野 兄鯉 殿,眞鍋 将太 殿,矢部 智宏 殿,比護 拓馬 殿,
小河 脩平 殿,関根 泰 殿(早稲田大学先進理工学研究科)
(上記所属は論文発表時のものです)

 持続可能な社会の実現に向け,次世代二次エネルギー源として水素が期待されている。水素は常温で液化しないため,体積当たりのエネルギー密度が低く,貯蔵・輸送の面で大きな課題がある。そこで,水素化反応と脱水素反応を可逆的に起こす有機ハイドライドを応用した水素の貯蔵・輸送システムが提唱されている。その中でトルエン−メチルシクロヘキサン(MCH)系は,常温常圧でともに液体であること,高い可逆性を示す水素化・脱水素化反応が可能であること,またいずれの化合物も化学的に安定であることから,最も有力な有機ハイドライド候補として注目されている。一方で,本系においては,平衡的な制約からMCH中に残存する未反応トルエンが問題となるが,トルエンとMCHは沸点が近いことから一般的な蒸留で分離することは困難である。
 本論文では,MCH中のトルエンを選択的に吸着可能な固体酸化物材料の探索と,その吸着特性に関して検討している。種々の組成を持つペロブスカイト型酸化物(一般式: ABO3)の系統的な材料探索の中で,La0.8Ba0.2CoO3−δ(LBCO)がトルエンの吸着に対して高い選択性を持っていることを見出している。さらに,XANES,XPSと密度汎関数法(DFT)計算を組み合わせた解析を適用することで,AサイトのLa3+に対して置換されたBa2+がBサイト中のCo4+を安定化させること,Co4+の存在量とトルエンの吸着量に相関性があることを示している。また,LBCOがベンゼンや2,2,4-トリメチルペンタンの吸着性を全く示さない一方で,キシレンに対しては吸着性を示すことから,メチル基から電子供与された電子リッチな芳香環に対してのみ吸着特性を発揮することで高い選択性を示していると推察している。
 本論文で報告されている研究結果は,基礎科学的見地から興味深いものであるのみならず,水素の貯蔵・輸送手法の有力な候補である有機ハイドライド法に関する有用な知見であり,水素社会の実現に向け寄与するところが大きいと考える。
 よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 61, (5), 272 (2018)

 

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