【奨励賞】(旭化成賞)(学術部門)

糖類の選択的脱水反応のための固体酸触媒の開発

 

大友 亮一 殿(北海道大学大学院地球環境科学研究院 准教授)

 大友氏は,バイオマス資源から有用化合物を合成するために重要な糖類の高選択的脱水反応を促進する固体酸触媒の開発に取り組み,ゼオライト触媒のブレンステッド酸点とルイス酸点それぞれの濃度や位置を制御する方法の開発と低原子価チタン酸化物微粒子の新規合成法の開発に成功した。
 糖類の脱水反応は多様な副反応を併発することが課題となっている。これに対して大友氏は,Betaゼオライトの焼成温度と酸特性の関係と触媒特性への影響を明らかにした上で,one-pot反応でグルコースからヒドロキシメチルフルフラールを高収率で得られることを示した。また,MCM-68ゼオライト結晶内でのブレンステッド酸点位置の分布を推定する手法を開発し,酸点位置がソルビトールの脱水反応に与える影響を明らかにするとともに,高いイソソルビド収率を達成した。これらの触媒は,既報の中でもトップクラスの収率を与えており,大友氏の開発手法は,他の類似化合物の脱水反応にも適用可能であると期待される。さらに,特徴的なルイス酸性を示すハフニウム含有Betaゼオライトの合成にも成功し,フルフラールからフルフリルアルコールへのMeerwein-Ponndorf-Verley還元に有効な固体酸触媒となることを明らかにした。 一方,大友氏は新規な固体酸触媒の開発にも取り組み,低原子価チタン酸化物の合成および触媒特性の解明を行った。チタン化合物のみを用いた固相合成法により,Ti2O3,Ti3O5,Ti4O7,Ti8O15などの低原子価チタン酸化物微粒子の作り分けを可能にした。さらに,Ti2O3ナノ粒子がフルフラールのアセタール化に高活性な固体酸触媒として機能することを明らかにした。
 以上のように,大友氏は,種々のゼオライトや金属酸化物の酸量・強度,存在位置,ブレンステッド酸,ルイス酸特性などを制御し,その特徴を生かして糖類の選択的脱水反応への高い触媒性能を得ることに成功した。カーボンニュートラルの時代において,糖などのバイオマス由来の原料を用いた有用化学品の合成には,水酸基などの官能基を自由に反応制御することが必須である。大友氏の業績は,その基礎を作る研究と言え,今後のこの分野の発展に大いに寄与するものと期待できる。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。

 

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