学会賞(表彰規程第3条1項に該当するもの)[学術的]

機械学習を活用する触媒設計法の開拓とC1化学への応用

 

小俣 光司 殿(島根大学大学院自然科学研究科 教授)

 小俣氏は,機械学習を物質設計に用いるマテリアルインフォマティクス(MI)の手法を活用した触媒設計法を開発し,C1化学を中心とする多様な触媒反応系における触媒組成や反応条件の最適化に有効であることを実証した。触媒分野におけるMIの導入に関して世界を先導する数多くの独創的な成果を挙げた。以下に同氏の研究成果をまとめる。
 人工ニューラルネットワーク(ANN)と遺伝的アルゴリズム(GA)を活用した最適触媒組成決定法と迅速触媒評価法を組み合わせて,メタノール合成触媒の迅速な探索手法を開発した。さらに,グリッドサーチ(GS),ラジアル基底関数ネットワーク(RBFN),サポートベクターマシーン(SVM),遺伝的プログラミング等の様々なMI手法に関しても触媒設計に活用できることを実証した。
 説明変数に添加元素の物性値を用いる機械学習手法を確立し,CuZn系メタノール合成触媒の第三成分探索に適用した。実験で使用していない第三成分の推定に成功し,CuZnBe系の高活性触媒を見出した。さらに,物性の組み合わせに実験計画法の直交表の考え方を適用することで,少ない実験数から多くの添加元素の効果を精度良く推定する手法も開発した。本手法を用いて,メタノールカルボニル化触媒,メタンの酸化的改質触媒,CO選択酸化触媒など,多様な触媒反応系における添加物探索に成功した。
 メタノール・ジメチルエーテル合成用の温度勾配型反応器における反応温度と触媒組成の最適化,メタンのドライリフォーミングにおける触媒寿命の予測,逐次・併発反応における反応速度定数の決定等,様々な用途にMI関連手法の有効性を実証した。また,二酸化炭素の水素化によるメタノール合成における水分除去を可能にする内部凝集型反応器を設計した。本反応器を用いて化学量論組成(H2/CO2 = 3/1),温度約240 ℃でのメタノール合成を実施し,反応圧力3 MPaの低圧条件下で平衡値(20 %程度)を大幅に上回る100 %近いメタノール収率が得られることを見出した。この際,副生成物である一酸化炭素の生成を0 %近くまで抑制することにも成功しており,学術面だけでなく実用性においても極めて重要な研究成果である。
 以上のように,小俣氏は,機械学習を活用する触媒設計法を開発し,C1化学において独自手法の有効性を実証した。一連のMI活用事例を通じて,汎用ソフトウェアを用いれば情報科学の専門家でなくても機械学習を用いた触媒設計が可能であることを広く発表することで,実験を専門とする研究者がMIを利用する先例を示した。さらに,反応器全体の最適化を可能にする触媒反応装置設計においても顕著な成果を挙げ,C1化学関連の触媒工学における学術的発展に大きく貢献した。よって,同氏の業績は本会表彰規程第3条1項に該当するものと認められる。

 

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