論文賞

ブースト決定木回帰を用いた石油システムの圧力-体積-温度特性の推定

 

Meshal Musaed ALMASHAN殿 *1) , Zolfaghari ARSALAN殿 *2) , 成末 義哲 殿, 森川 博之 殿
(東京大学)

 石油開発において,貯留層流体の圧力―体積―温度の関係を示すPVT特性は,生産中に貯留層内で生じる流体の相変化を予測するために必要な特性の一つであり,正確で信頼性の高いデータが求められる。特に,石油から溶解ガスが遊離し始める圧力である沸点圧力と,貯留層流体の地表条件と原位置条件における体積比を表す石油容積係数は,最も重要なPVT特性であり,状態方程式による推定,経験的なPVTの相関関係による推定,機械学習モデルのうち人工ニューラルネットワークによる推定が一般的に行われている。近年,機械学習モデルによる推定性能は相関関係に基づく従来手法の推定性能に匹敵しているが,人工ニューラルネットワークでは,出力に至った判断のルールを人間が理解することが難しい「ブラックボックス問題」を有することが知られている。
 そこで著者らは,ブラックボックス問題を解決すべく,新たなモデル化方式を検討した。本研究では,正確な推定を実現すると同時に,推定結果に対する入力パラメーターとその重要度に関する考察を可能とするため,ブースト決定木回帰を用いて,石油とガスの比重,石油と溶解ガスの比,貯留層温度の関数として,沸点圧力ならびに沸点圧力における石油容積係数を推定した。構築されたモデルは,既存の機械学習モデルや最も一般的に使用されている相関関係に基づく従来手法と比べて,より高い推定精度を示した。特に沸点圧力の推定において,欠損値補完の前処理を施すことにより,複数の入力特徴量が欠損しているデータを用いた評価においても,相関関係に基づく従来手法よりも優れた有効性が確認された。
 以上のように,本研究で提案されたモデルは,PVT特性の新たな推定手法として,従来手法よりも優れた予測性能および汎用性を示す意義のある成果であり,本研究分野の発展に大いに寄与するものである。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 65, (6), 221 (2022).
(現在)*1) The Public Authority for Applied Education and Training, Kuwait, *2) Thermo Fisher Scientific

 

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