技術進歩賞

電動車用超低粘度トランスアクスルフルードの開発と製品化

 

床桜 大輔 殿(トヨタ自動車(株)電動化・環境材料技術部)
新吉 隆利 殿(トヨタ自動車(株)電動化・環境材料技術部)
薄田 洋平 殿(ENEOS(株)潤滑油研究開発部)
多田亜喜良 殿(ENEOS(株)潤滑油研究開発部)

 本技術は,トランスアクスルフルードに使用される添加剤に着目し,摺動部材の表面に耐久性に優れる被膜を形成させることで,超低粘度化に成功した。併せて,油膜保持性に優れるポリマーの採用により,超低粘度でありながら電動車用として必要な電気絶縁性を維持し,粘度の高い従来のトランスアクスルフルードと同等以上の耐久性を確保したうえで,燃費向上を達成したものである。
 電気自動車やハイブリッド車など電動車の優れた省燃費性能から,地球温暖化対策の一つとして,電動車の生産台数はグローバルで急速に増加している。ただし,電動車においても燃費の向上が一層求められている。一般に,潤滑油の粘性抵抗に起因する撹拌損失を低減することが燃費向上に有効であることが知られており,撹拌損失の低減には潤滑油の低粘度化が効果的である。トランスアクスルフルードだけでなく,エンジンオイル等,ほぼすべての潤滑油において低粘度化が進んでいるが,潤滑油の低粘度化は,油膜がもたらす潤滑性能を低下させることから,焼付きや異常摩耗,早期の疲労損傷の発生につながる可能性があり,バランスを見極めながら徐々に低粘度化を進めてきた背景がある。また,潤滑油の低粘度化によって,消泡性やシール性が悪化することによる油漏れの発生,引火点が低下することによる安全性の低下についても考慮が必要である。
 このような状況において,本技術では,電動モーターの最高温度を見極め,引火点基準を緩和することで従来のトランスアクスルフルードからの粘度半減を検討した。また,本技術は電動モーターの冷却と変速機の潤滑を共通の潤滑油で行う新しいコンセプトにより小型軽量化が可能となり,超低粘度化によるモーター冷却性の向上との相乗効果による効率向上を実現している。
 電動車用超低粘度トランスアクスルフルードの製品化は,配合する添加剤に関わる技術のみならず,このトランスアクスルフルードを使用可能とする機械装置の技術開発と併せて達成したもので,開発したトランスアクスルフルードは1.2 %以上の燃費改善を示すとともに,各種耐久性も確認されている。本技術によるトランスアクスルフルードは2022年から他社に先んじて適用されており,十分な市場実績がある。また,国内特許が登録されていることから技術の新規性と進歩性が確認できる。
 以上,本技術を適用して開発され,製品化された電動車用超低粘度トランスアクスルフルードは,電動車の燃費向上からCO2排出量の削減に大いに貢献することが期待される。よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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