奨励賞(学術部門)

二相系オルガノソルブ処理による木質・草本系バイオマスの成分分離と触媒変換

 

吉川 琢也 殿(帯広畜産大学環境農学研究部門 准教授)

 吉川氏は,木質・草本系バイオマスを対象に,ユニークな二相系溶媒による成分分離技術を開発し,さらに本技術で得られる各構成成分の触媒変換において優れた業績を挙げた。
 持続可能な社会への移行に向けて,再生可能で賦存量の豊富な炭素資源である木質・草本系バイオマスの利活用が求められており,それには構成成分(リグニン,へミセルロース,セルロース)の成分分離が不可欠である。吉川氏は,構成成分に不要な化学的変性を与えない温和な成分分離法として,水-ブタノール二相系溶媒を使った方法を開発した。本法では,可溶化リグニンをブタノール相に順次抽出しながら,へミセルロース由来糖を水相へ可溶させ,セルロースは固形分として分離・回収される。可溶化リグニンの抽出過程の律速段階を反応工学的に明らかにするとともに,既往の水-エタノール均一系溶媒よりも,リグニンとへミセルロースの両方の可溶化率を高められることを実証し,溶解度パラメーターの解析によってこれを裏付けた。
 吉川氏は,酸化鉄系触媒を用いた水素の外部供給を必要としない反応プロセスによる可溶化リグニンからのフェノール類の高収率回収を達成した。また,この反応プロセスの課題であった多様なフェノール類の生成を,ゼオライト触媒を用いたトランスアルキル化との組み合わせによって解決した。さらに,シンプルな溶剤分画プロセスの開発と軽質リグニンの防腐剤としての利用,可溶化リグニンの特性を生かした水系バイオプロセスとの連携による芳香族モノマーへの集約を行い,リグニンの用途開発を大きく進展させた。吉川氏はリグニンに加えて,セルロース・へミセルロース由来成分の化学品への触媒変換や,セルロースの特異な繊維配列をそのまま生かした樹脂複合材の開発においても大きな成果を挙げた。
 以上の研究成果は,木質・草本系バイオマスの高度利用につながり,石油化学工業への再生可能原料の供給に大いに寄与しうるものである。よって,本会表彰規程第12条1項に該当するものと認められる。

 

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