奨励賞(工業部門)

金属修飾メソポーラスシリカを触媒とするイソブタン酸化脱水素に関する研究

 

加藤 裕樹 殿(三菱ケミカル(株) MMA研究開発センター 主席研究員)

 イソブテンは,メタクリル酸メチルをはじめとするプラスチックのほか,溶剤,燃料添加剤,ゴムなどの多様な有用物質の重要な化学原料であり,主にナフサ分解により製造される。一方,ナフサ分解により得られるイソブテンの割合はわずかであるため,化石資源の有効利用の観点から種々の代替法も検討されてきた。その中でもイソブタン酸化脱水素は,化学原料としての有用性が低いイソブタンからイソブテンを直接製造する手法として注目されているが,高収率でイソブテンを与える触媒の開発が課題とされてきた背景があった。
 加藤氏は,種々の金属で修飾したメソポーラスシリカを触媒としたイソブタン酸化脱水素の研究を推進し,その結果クロム修飾SBA-15が本反応に対し従来触媒を上回る有効な触媒として機能することを見出した。また,通常では金属修飾によりメソポーラスシリカの比表面積は低下するのが一般的であるが,同氏が開発した触媒系では,クロム修飾により細孔構造を部分的に崩壊させることで逆に比表面積が増加するというユニークな現象も見出されている。これはそれまでの触媒化学における常識とは一見反するものであり,本現象の発見には同氏の独創性が認められる。さらには,X線吸収分光法を用いた検討により触媒の活性点構造やイソブタン酸化脱水素の反応機構を提案するなど,触媒開発だけでなく基礎研究の面においても積極的な研究展開を進めた。
 以上のように加藤氏は,イソブタン酸化脱水素によるイソブテン製造の研究において独創的な研究展開に基づき優れた触媒を開発し,また基礎的な理解も深めた。これらの成果は高効率なイソブテン製造技術の開発と実装に資するだけでなく,その他のアルカン類の脱水素技術にも展開可能な知見を含んでいると判断される。よって,本会表彰規程第12条2項に該当するものと認められる。

 

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