技術進歩賞

基礎くいの沈下を低減する歴青塗布材の開発および商品化

昭和シェル石油(株)中央研究所殿

 本技術は,埋め立て地盤等の基礎工事時に使用される打ち込み杭(くい)等の周表面に塗布することによって,沈下する地盤から杭が受ける下向きの摩擦力(負の摩擦力,ネガティブフリクション)を大幅に低減できる特異な歴青材(商品名:SLコンパウンド)を開発・商品化したものである。本歴青材は以下の特長を有している。

 (1) 杭打ち込み時に作用する杭と周辺地盤間に生じる短時間のせん断応力に対しては,弾性的に挙動することによって歴青材が杭に追従して,ずれ上がらない。
 (2) 地盤沈下による杭周辺地盤から杭が受ける長時間にわたる荷重に対しては,杭と地盤の間に介在する歴青材が粘性的に挙動することによって,荷重をほとんど杭に伝達しない。

 本技術は,歴青材の粘弾性特性を表すスチフネスが,温度と載荷時間の2つの要素に依存することに基づくもので,歴青材を塗布した杭が供される使用条件(温度,載荷時間)下で最適なスチフネスが発現できるように粘弾性特性の制御を行うところに特長がある。本歴青材は市場流通している一般アスファルトとは性状を異にしており,各過程において歴青材に求められるスチフネスの範囲を定めて,それぞれの地盤条件に対して最適な性状となるように設計される。また,歴青材によって杭に伝達される理論的荷重(残留摩擦力)の算定法も確立している。これらの設計法は,石油製品に関するものとしてはユニークかつ新規性に優れており,今後アスファルト系の新材料を開発する場合に極めて有用である。現在までのところ本歴青材に並びうる製品は存在せず,まさに市場を席巻している。

 本歴青材を採用する効果としては,
(1)設計が明瞭になり基礎の安全が確保できる,
(2)沈下する地盤から受ける負の摩擦力を90%以上も低減し,基礎の建設コストを大幅に縮減できる,
(3)杭材量の節約により杭の生産,運搬,打設過程での省エネルギー,排出CO2の大幅な削減ができる,などがあげられる。

 なお,技術ライセンスを受けた日本鋼管(株)の扇島建設グループは,この技術を利用した工法に関して土木学会賞を受賞している。本歴青材を塗布する技術は,港湾,発電所,高速道路,上下水道,埋め立て人工島等,粘土シルトたい積の軟弱地盤や臨海の埋め立て地盤における多くの構造物基礎工事に広く採用されている。それによって,省資源,省エネルギー,CO2排出削減等の面での貢献は極めて多大なものになっている。以上の点から,本技術は本会表彰規定第9条に該当するものと認められる。

 

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