技術進歩賞

石油発酵技術を基盤とする5-アミノレブリン酸の工業製造法と新規用途開発

 

コスモ石油株式会社殿

 コスモ石油(株)の本技術は,石油発酵技術を基盤とすることで機能性アミノ酸である5-アミノレブリン酸(ALA)の工業製造法を確立し,さらに肥料分野での新たな用途を開拓したものである。
 ALAは天然アミノ酸の一つであり,タンパク質を構成するアミノ酸と異なり,生体内ではヘムやクロロフィル,ビタミンB12などの共通前駆体として重要な役割を担う。同社は光合成細菌のもつ強力なポルフィリン類合成能力に着目し,石油発酵技術を基盤とする微生物変換技術を用いることで,安価なグリシンからのALAの工業製造法を確立した。通常,光合成細菌によるALA生合成は光照射下で行われるが,非光照射下でALAを高生産する変異株を取得し,光照射を必要としない通常の発酵槽での工業生産を可能にした。さらに,培養条件等を検討することで200倍以上の生産性の向上を達成し,ALAの製造コストを汎用品として使用できるレベルにまで軽減させている点も高く評価される。また,本技術は化学合成・遺伝子組換えといった競合技術に対しても十分なコスト競争力を有している。
 コスモ石油(株)によるALAの用途開発にも見るべきところが多い。当初,ALAは過剰投与による除草剤として検討が進められたが,同社は低濃度のALAが植物成長促進活性を有することを世界で初めて発見した。また,ALAの植物成長促進効果は様々なストレス条件下で顕著になることを見出し,とりわけ植物の耐塩性の向上に顕著な効果があることを発見した。サウジアラビアや中国で,植物の耐塩性向上や砂漠緑化に関する試験研究も実施しており,産油国における農業生産増大や砂漠緑化に対して大きな貢献も期待できる。この耐塩性付与は,ALA溶液を植物に直接散布するというケミカルコントロール技術であり,遺伝子組換え植物や耐塩性植物など,他の耐塩性技術と組み合わせて用いることも可能であり,今後の世界の食糧問題を解決しうる重要な技術へと発展していくであろう。
 ALA含有肥料の基本特許が期限切れを迎えたものの,これまでに他社の特許権利化はなく,特許戦略に大きな問題はない。また,多くの海外出願を行っている点,ALAの利用で今後最も有望と考えられるALAリン酸塩の物質特許を取得している点も評価できる。
 コスモ石油(株)は農業用および家庭園芸用ALA含有肥料の生産・販売に取り組んでおり,ALA原体販売事業も着実に推移している。また,本技術は,原料として石油化学工業の基礎化学品であるグリシンを用いており,グリシンの需要拡大にもつながる。ALA含有肥料は,単独使用だけでなく,既存の植物成長調節物質との併用効果もあることから,競合品との併用展開も期待できる。さらに,化粧品,健康食品,医薬品などへの展開に向けたタイアップをパートナー企業と行っている模様で,今後のALA市場のさらなる飛躍が期待される。よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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