論文賞

Ni/ペロブスカイト触媒を用いた水蒸気改質における炭化水素の構造の影響

 

比護 拓馬 殿1),橋本 崇 殿1),*1),向井 大揮 殿1),*2),長竹 慧 殿1)
小河 脩平 殿1),杉浦 行寛 殿1),2),*3),関根 泰 殿1)
(早稲田大学1),JX日鉱日石エネルギー(株)2))
(所属は論文発表時のものです)

 本論文は,Ni/ペロブスカイト触媒上での炭化水素(HC)の水蒸気改質反応において,原料であるパラフィン,ナフテンおよび芳香族の反応性の違い,およびペロブスカイト担体中の格子酸素の反応への関与について詳細に検討し,その結果を考察したものである。バイオマス利用の観点から炭化水素種としてC7化合物(n -ヘプタン,メチルシクロヘキサン,トルエン)に焦点をあてており,エネルギー技術開発という社会的背景に立脚した研究であると考えられる。
 研究対象とした触媒は,著者らの研究室で開発されたNi/ペロブスカイト触媒である。Ni触媒は,安価で比較的高い初期活性を示すことが知られているが,コーク生成による著しい活性低下という大きな欠点を持つ。アルカリ金属などの添加によるコーク生成の抑制が試みられているが,十分な成果は報告されていない。
 比護氏らは,ペロブスカイトLaAlO3中のLaを一部Srに置き換えた担体La0.7Sr0.3AlO3上にNiを担持することにより,Ni/LaAlO3およびNi/Al2O3より高い活性とコーク生成の著しい抑制を同時に達成している。一方,担体中の格子酸素の反応への関与について,H218Oを用いたSSITKA法(定常状態における同位体過渡応答反応解析)により検討し,高性能を示したNi/La0.7Sr0.3AlO3を用いたとき,格子酸素との反応によるCO,CO2が多量に生成することを明らかにした。その結果から著者らは,格子酸素による酸化を含むレドックス機構で反応が進行することにより,炭素析出の抑制が達成されると論じている。また,原料分子の昇温脱離過程のFT-IRスペクトル測定から,表面吸着種の反応性および安定性を評価し,Sr2+サイト上に6員環構造の安定な表面吸着種が形成されることを明らかにした。さらに,これらの速度論的検討および分光学的検討の結果から,Ni/La0.7Sr0.3AlO3触媒上での水蒸気改質反応の反応経路を明らかにした。
 以上のように,本論文は水蒸気改質における触媒の格子酸素の寄与を明らかにするなどの学術的な貢献に加えて,多様な原料への対応技術にも貢献する幅広い内容を論じた完成度の高い論文である。よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。  

[対象論文]J. Jpn. Petrol. Inst., 58, (2), 86 (2015).

(現在)
*1)(株)日立製作所
*2)新日鉄住金化学(株)
*3)JXエネルギー(株)

 

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