奨励賞(出光興産賞)

過酸化水素を用いるエポキシ化合物合成技術の開発と電子材料への応用

 

今 喜裕 殿(産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 主任研究員)

 今氏は,過酸化水素を酸化剤に用いるオレフィンのエポキシ化反応をターゲットとし,塩素フリーかつ有機溶媒不使用な条件で種々のエポキシ化合物を高収率に合成できる独自の触媒系を開発することに成功した。これらの触媒技術を電子材料で重要な技術であるエポキシ樹脂用途の塩素フリー半導体封止剤への展開を行っている。
 一般的に石油から高付加価値の化学品を製造するための多段階の反応において,酸化反応は必要となる反応であるが,通常,重金属や塩素系の酸化剤などによる酸化反応では,重金属や塩素化合物を含む大量の副生成物を伴うため環境負荷が大きいことが問題となっている。また,酸素を直接酸化剤に用いる触媒反応では,原料の燃焼を伴うため生成物選択性が低いことが問題となっている。一方,過酸化水素は反応後に水のみを副生する理想的な酸化剤であるが,酸化力は弱く,所望のエポキシ化反応には効力がないとされてきた。
 今氏は,過酸化水素を酸化剤に用い,これまで効果的な触媒が開発されていなかった複雑な構造を有するオレフィンやポリマーなどのエポキシ化反応について,独自の触媒設計指針のもとに添加剤を工夫した金属錯体を触媒に用いることにより,対応するエポキシ化合物を高効率に製造可能な触媒反応技術を開発した。たとえば,従来のタングステン酸塩をベースに4級アンモニウム塩,ホスホン酸と硫酸ナトリウムを組み合わせた系がテルビン油の主成分,α-ピネンのエポキシ化反応において有効なことを発見し,加水分解しやすいα-ピネンオキシド類を水中で製造することを可能にした。また,同様に加水分解性の高いスチレンオキシド類を高速で合成できる鉄‐ピコリン酸錯体触媒系を開発した。従来の触媒系では達成できなかった種々のエポキシ化合物を製造する基盤技術を蓄積することで,過酸化水素酸化反応の基礎技術を確立させた功績は大きく,高く評価される。
 以上の業績は,これまで困難とされてきた過酸化水素を酸化剤に用いたエポキシ化技術を新規な触媒系の構築により確立し,グリーンイノベーションの進展に多大な貢献をなすものと判断され,よって本会表彰規程第12条に該当するものと認められる。

 

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