論文賞

メタン水蒸気改質反応用貴金属触媒の硫黄耐性

 

渡辺 文博 殿1), 鏑木 以久子 殿2), 霜田 直宏 殿3), 五十嵐 哲 殿, 里川 重夫 殿(成蹊大学理工学部)
(上記所属は論文発表時のものです)

 メタンを主成分とした天然ガスの水蒸気改質(SMR)による水素製造は,化学産業や燃料電池の普及のための最も重要な技術の一つである。商業プロセスでのSMRでは,Ni系触媒が多く用いられるが,活性低下の原因となる炭素析出が進行しやすいという問題がある。加えて,天然ガス中には触媒毒となる硫黄分が存在し,SMRの前に脱硫工程が必要となる。脱硫プロセスは,水素化脱硫が一般的であるが,エネルギーの必要投入量が大きい。一方,安価で簡便な手法として,吸着剤を用いた硫黄除去方法があるが,ジメチルスルフィド(DMS)といった吸着除去が困難な硫黄成分は脱硫工程をスリップしてSMRへと供される場合がある。筆者らは,SMRにおいて貴金属触媒は炭素析出が進行しにくいことに着目し,硫黄分に耐性を有する貴金属触媒の探索を行ってきた。炭素析出が少なく硫黄分への耐性を有する貴金属触媒を用いることで,さらに高効率・長期運転可能なSMRプロセスの構築が可能となる。
 本論文では,硫黄耐性を有する貴金属触媒の開発を目的として,α -Al2O3担持貴金属(Rh, Ir, PtおよびRu)触媒を含浸法により調製し,硫黄分(DMS)共存下での触媒性能評価を行っている。いずれの貴金属触媒においても,硫黄分によってSMR活性が低下するが,RhおよびRu触媒は数時間で失活するのに対し,PtやIr触媒は一定の触媒活性を保持することを見出し,劣化速度および劣化後の触媒活性が貴金属種によって異なることを明らかにした。ただし,Pt触媒の方が高活性であった。触媒劣化後にDMSの供給を停止し,SMRを継続すると,PtやIr触媒は活性が100 %近く回復するが,Rh触媒の活性回復は鈍く,Ru触媒では活性が全く回復しないことも確認している。筆者らは,これらの活性低下および活性回復の違いを貴金属への吸着硫黄種の違いに由来するものと考え,PtやIr触媒では活性点への硫黄種の吸着は可逆的で弱く吸着しているため活性の回復が見られたものの,RhやRu触媒では活性点への硫黄種の吸着は不可逆的で強く吸着して活性の回復が困難となったと提唱している。これらの結果から,Pt/α -Al2O3触媒はDMSの存在によらず最も高いSMR活性を示し,硫黄分を含む天然ガスの改質反応において有望な触媒であると結論づけた。
 以上のように,本研究で得られた知見は,需要の拡大が見込まれる水素の製造において,高効率・長期運転可能なプロセスを構築するための指針を示すものであり,本研究分野における大きな貢献と言える。
 よって,本論文は本会表彰規程第6条に該当するものと認められる。

[対象論文] J. Jpn. Petrol. Inst., 60, (3), 137 (2017).
[現在] 1) (国研)産業技術総合研究所,2) (株)ワールドインテック,3) 徳島大学

 

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