技術進歩賞

接触改質ガソリン中の微量硫化水素除去技術の開発

 

幾島 嘉浩 殿1),幾島 將貴 殿1),山浦 弘之 殿2)
関  建司 殿3),Charles Brumlik 殿1)
(1) IHテクノロジー(株) ,2) 愛媛大学,3) 大阪ガスケミカル(株))

 本技術は,活性炭に遷移金属を担持した硫化水素除去剤を用いるシンプルなプロセスで,石油精製工程における接触改質ガソリン中に溶存する微量の硫化水素の除去を可能とするものである。
 接触改質ガソリンの不飽和炭化水素除去工程の後段において数ppm程度の微量の硫化水素の生成が確認され,製品の品質面や設備の安全面からその除去が課題となっている。幾島氏らはこのような製造現場のニーズに対応すべく,接触改質ガソリン中に溶存する微量の硫化水素を吸着除去可能な除去剤の開発と製造現場での実証化試験を経て本技術の商業化を実現している。硫化水素除去剤は,吸着能に優れる高表面積で多孔質な活性炭を担体とし,硫化水素との結合エネルギーを推算し最適な遷移金属酸化物を担持したものとして開発された。硫化水素の除去機構については,処理前後の除去剤の分析,解析により原料油中に含まれる微量の水分を介在し,硫化水素と活性炭表面の各種官能基や担持遷移金属酸化物との化学反応による除去の可能性が示唆されている。
 硫化水素除去剤はラボスケール装置でスクリーニングを実施するとともに,吸着速度や吸着平衡,吸着帯を測定,解析し実装置に適用可能な除去剤を選定している。さらに,選定された除去剤の実装置スケールでの実証化試験を行い処理後の接触改質ガソリン中の硫化水素濃度が0.05 ppm以下に低減可能なことや接触改質ガソリンの性状への影響はないことを確認すると同時に,実装置の概念設計に必要なデータ採取や運転ノウハウの蓄積を達成している。
 本技術は,常温,常圧で微量硫化水素の除去が可能である点,ユーティリティが不要な点が特徴であり,実証化試験はこの特徴を活かして製油所に既設の接触改質ガソリンの不飽和炭化水素除去反応塔の下段に硫化水素除去剤を充填して実証を行い成果が得られている。また,本技術では硫化水素は不可逆吸着であり使用済みの除去剤は通常の産業廃棄物処理で対応が可能である。
 以上,大規模な設備導入や高温,高圧の条件を必要としない簡便で経済性に優れた分解改質ガソリン中の微量硫化水素を除去する本技術は2016年に商業化され,現在までに国内の石油会社2社で5装置が商業運転され,順調に稼動を継続している。今後,国内外の製油所へのさらなる展開が期待される。
 よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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