技術進歩賞

LSPI(Low Speed Pre-Ignition)対応低燃費SN/RCエンジン油の開発

 

金子 豊治 殿1),山守 一雄 殿1),宮田 斎 殿1) 鈴木 寛之 殿2),小野寺 康 殿2)
(1) トヨタ自動車(株) ,2) EMGルブリカンツ(同))

 地球温暖化対策のため,車両からの二酸化炭素排出量削減が求められ,内燃機関の効率向上が要求される中,大きなシステム変更を必要としないエンジン油による低燃費化は効果の大きいかつ重要な技術である。ガソリンエンジン油規格として2010年にAPI(American Petroleum Institute)SN/RC (Resource Conserving)規格が導入され,さらに現在,次期グローバル規格が議論されているが,過給ダウンサイジングエンジンで発生するLSPI(Low Speed Pre-Ignition)と呼ばれる異常燃焼の防止性能とエンジンの清浄性,それらと背反する低燃費性能の両立が課題となっている。本技術は,LSPI防止性能と省燃費性能に関するエンジン油中の添加剤の相互作用メカニズムを明らかにし,それらの背反性能を成立させることに成功し世界で初めてその対応技術を確立した省燃費ガソリンエンジン油に関するものである。
 ガソリンエンジンの燃費向上技術として,近年,過給ダウンサイジングエンジンの導入が増加している。しかしながら,このエンジンでは,低速・高負荷での運転により,LSPIが発生するため,これを防止することが重要な課題となっている。LSPIの発生要因としてエンジン油の自己着火が影響することが知られていたが,本技術を開発する過程において,従来の省燃費エンジン油を使用した際に起こるLSPIの現象のメカニズムを解明し,それに基づく対応技術を示した。
 LSPI防止性能確保のため,金属清浄剤を従来のCa系清浄剤単独使用から,Ca系とMg系清浄剤を併用する配合とした。さらに,低燃費性を実現するため,低粘度化するとともに境界潤滑領域での摩擦低減効果に優れるMo系摩擦調整剤を使用した。Mg系清浄剤の使用は,境界潤滑領域において摩擦係数の上昇を引き起こすが,その背反性能を,B系分散剤を併用することで克服し,優れた省燃費性を示すエンジン油の処方技術を開発することに成功した。
 本開発油の燃費効果を確認するため,エンジン台上試験を用いて燃費試験を実施したところ,従来の基準エンジン油に対し,本開発油は1 %の燃費改善を示した。また,過給直噴エンジンを用いたLSPI防止性能の確認試験では,従来の基準油に対して十分な防止性能を有していることを確認した。
 本技術を用いた製品化は既に行われ,十分な市場実績がある。また,本技術に関連した特許は登録されており,知財権も確保されている。
 以上,本技術は次期グローバル規格にも適合する基本技術で,市販エンジン油の品質向上に寄与し,過給ダウンサイジングエンジンの信頼性向上と燃費改善に大きく貢献することが期待される。
 よって,本技術は本会表彰規程第9条に該当するものと認められる。

 

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